裏金作りと裏稼業と税金
昭和50年代後半から平成3年のバブルがはじけるまで不動産は右肩上がりで、特に平成元年からの不動産価値の上昇が著しく頻繁に売買が行われておりました。
上昇程の実需があったわけでは無いのですが、相場が独り歩きしており、そのころ不動産屋は、転売益で大きく儲けました。
例えば知り合いの業者から電話がかかってきて「●●に土地が1億で出てきたんだけど買うか?」と言われて、見に行きもせず「買うわ」といいます。電話を切った直後にそのまた知り合いに電話をかけて「●●の土地1億2000万でくくったけどかう?」と持ち掛けると「買うわ」。5分で2000万円の世界です。これを何回も繰り返すのです。当然儲かる所から獲るのが国ですから、当時、思いっきり税務署から不動産業者はカモられました。ほんまにいかつかったようです。
譲渡所得税・取得税・登録免許税・固定資産税等 不動産に群がる税金は色々あります。
不動産屋で主に税務署から狙われているのはこの35%から40%になる重加算税と不動産所得でした。不動産所得といっても宅建業者の場合、不動産は仕入れやそれに伴う財産とみなされるため、通常は事業所得と損益通算が出来るというもののバブル期の転売益を吸収できるほどの節税は追いつきませんでした。上記のような短期転売についてもそうですが、長期保有の社有物件の売却もがっつりと取れます。というのも長期保有の物件については減価償却で簿価が無くなっていたりするので、売却益がおもいっきり出ます。
例えば15年前に5億円で買った不動産は帳簿上減価償却して簿価1億位になったとしますよね。それが、バブル期に20億で売れるとすると単純計算にはなりますが、20-1=19億円の譲渡益になります。こうなると、9億近くの税金を税務署は取りにきます。ここで登場するのがB勘屋、かぶり屋です。もちろん裏稼業であり、違法でありますが、バブル期はこの手の業者が暗躍しておりました。
どういう仕事内容かというと、売買契約金額を圧縮して表向き不動産の利益が出ないように装い、架空の領収書を使いながら、譲渡益を圧縮し、脱税を幇助する代わりに、相応の手数料を売却主から頂くというものです。
当時、地上げ屋(賃借人を立ち退かせて土地の権利関係を整理する仕事)も多く存在しており、そこに支払うお金として、B勘屋を使うことも少なくなかったのですが、稼げる手数料に限界があるため、稼ぎの多い不動産売買に絡むケースが多いです。B勘屋の摘発は不動産の譲渡益圧縮という巨額の脱税を取り締まる手がかりです。B勘屋の発行する架空の領収書はその手段として使われるので、税務署は本丸を回収するために厳しく目を光らせてます。
例えばA社が簿価1億の不動産を売却するときに
- ① 赤字が5億あるB社(休眠会社)に1億円で売却する。(この時点でAは譲渡所得0円)
- ② B社は赤字が5億あるC社に6億で売却する。(B社損益通算0円)
- ③ C社は11億でD社に売却(c社損益通算0円)
- ④ D社は赤字が9億あるのでE社に20億で売却
(Eは本当にこの不動産を欲しい会社) - ⑤ 登記はA→Dに中間省略。
(※中間省略とは不動産売買の経緯に関わらず、最終の所有者に直接所有権移転を行う事。)
B.C.Dはやくざが集めてくる休眠会社や倒産寸前の建設会社や不動産会社でフロントややくざの息がかかっている企業です。
- A→B 領収書 1億円①
- B→C 領収書 6億円②
- C→D 領収書 11億円③
- D→E 領収書 20億円④
勿論、この取引の経緯で自らもともと所有している裏金を使用しながら巧みに処理していきます。
これは裏社会の人間がA社に持ち掛ける話です。
報酬として①②③④の領収証の額を足した38億円の数パーセントの報酬を受け取り、B.C.Dの架空会社に関わる人間(B勘屋)にはそのうちの一部を支払い、残りの大部分は裏社会の資金源にするという構造です。
この稼業は一つの取引で何億ものB金を生みます。
Aは本来は20億で売却し9億の納税義務があるところを、不動産所得税を免れ、エビデンスも完璧に揃えて、本来払うべき税金のほとんどが手元に残るのです。B金で。これがB金にするB勘屋、裏稼業の手口です。つまり、不動産取引に絡み、領収証をそれに合わせて不正発行するのが、B勘屋です。
国税はこの取引を取り締まるために目を光らせ、不動産取引の法改正も行われました。
現在では上記に書いた中間省略も原則禁止になり、国は税金のとりっぱぐれが無いように規制されています。現在、話題のマイナンバーにしてもそうです。色々と、マイナンバーのメリットを挙げて完全に移行するように力を入れていますが、要は「隅から隅まで」取りっぱぐれなく回収したいだけなのです。
今回、記事にした脱税行為は勿論、違法行為ですし、不動産が財産ではなく消費財として扱われるようになりつつある現在ではほとんど減っておりますが、手を変え品を変え、形を変えて税金逃れの手法は存在しております。個人の感想としては微妙ですね。悪を悪として処理するのは簡単な事ですが、収益を生むのが難しい現代社会でそこの構造改革をおろそかにしながら、税金をむしり取ることが正義だとも思いません。
現在の税制優遇の恩恵を受けているのは大企業のみで、今の税制はまさに「貧乏人から毟り取る」という表現がぴったりな制度だと思います。中小企業、零細企業がどれだけ苦しんでいるかを考えると、違法行為とはいえ一方的に脱税行為を非難するのも考え物ですね。
節税と脱税・・・紙一重です。
紙一重なのですが、今の経済を考えると強者にモノを言わず、弱者から根こそぎ取ることばかりを考えずに、多少の事は目をつぶるくらいのアロアランスをもって税収してほしいですね。行く将来、中小企業や零細企業が社会貢献のために喜んで税金を払えるような、包括的な国の構造改革を望む今日この頃です。